【回想録8】
  夏は雄大でカラフル



 原生花園の花咲き乱れる六月下旬の網走は実にきれいだ。東京で北海道のいいところは、とよく聞かれる。私はまず網走の原生花園、風景の雄大な大沼、夕映えの美しい知床の海、積丹半島を挙げてきたが、夏の北海道はどこでもみな雄大でカラフルだ。小樽の、あの群青色を流したような海。これも北海道の色なのかと、認識を新たにしたことがある。


 しかし冬は峻烈(しゅんれつ)である。網走・紋別で流氷をよく描いたが、とにかく寒い。強い酒をのんでも、足はふらふらするが、頭だけはすっきりしている。咆哮(ほうこう)して襲いかかる吹雪は、山野も街も凍てつかせ震え上がらせる。あまりの寒さに一枚だけ描いて、あとはスケッチを頼りに宿で仕上げた。この時の一枚は芯までしばれる寒さを感じるが、あとの一枚は仕上がりは綺麗でも、私の目には温かくて流氷とはいえないものだった。絵は、油断がならない。正直である。


 知床の夕映えも実に豪快だ。大きな太陽が真っ赤に燃えて海の中にジューと音をたてて落ちて行く。感動的だが、あとは寂しい。無常の人生を感じる。これに対して積丹の夕焼けはわりにカラッとしている。天が高いのである。ウロコ雲がいっぱいに広がり、明日に希望が湧いてくる。


 七月初旬、サロベツ原野のエゾカンゾウが原野一面に咲き乱れ、黄色一色に染まる。空はスカイブルー。白雲が抽象画のように美しい線を描いている。この原野のコントラストは何か都会的で、私は一度も曇りや雨にあったことがなかった。そういえば、ここに雨は降るのだろうか。



 



   





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